小説 スペースシザース【ss】#10
家に着いたら親父が帰っていた。母はせっせとすき焼きの支度をしていて、慌ただしそうだ。
俺「ただいまー!あ、親父お帰り。俺さ、第一希望のネイキッドデザインに受かったんだよ!」
父「おお。それはおめでとう。卒業前に決まって良かったな。兄貴と同じデザイナーか。」
母「お父さん!薫の事は‥」
父「ああ。そうだったな。アイツはどこほっつき歩いてるんだか。もう2年も音沙汰無しで。」
俺「‥‥まぁさ!兄貴も男なんだし!何だかんだ元気にやってると思うよ。そのうち、おっすー!とか言ってヒョッコリ顔出すよ」
母「そうだと良いんだけどね。薫ったら」
兄貴は4歳上で、ホントに明るくて、俺にも色々してくれる気さくな頼れるお兄さんって感じで、大好きだった。
俺の夢はパリッコレクッションの衣装を作る事だって、いつも言ってたっけ。
母「まぁ薫は何処かで上手くやってるわよ。お母さんに似て割と世渡り上手な所があるし。」
父「そうかもな。アイツは母さんに似てやる時はやる奴だからな!ワハハ」
俺「う、うん。二人がそう言うんならそうだろうけどね」
俺はなんと無くその場を流して話題を変えたかったので、合格祝いをねだってみようと思い切り出した。
俺「ねぇねぇ。合格祝いに裁縫道具1式新調したいなぁなんて思ってるんだけど、どうかな?」
母「あら、良いんじゃない?一流の仕事は一流の道具からってお父さんも言ってたじゃないの。明日は土曜日だし三人で見にいってみましょうよ。」
父「そうだな。帰りに寿司でも食うか!!」
俺「やったぜー!持つべき者は親父とかーさんだね!今日はすき焼き、明日は一流裁縫道具と寿司だってんだから。とーさんもっと飲みなよ!!」
俺はとても良い気分ですき焼きをどんどん平らげ、明日の買物を楽しみに最高の夕飯を過ごした。