小説 スペースシザース【ss】#21
バクバクと食べて朝食を終え、ごちそうさまも言い忘れたが、食器の片付けはしっかり済ませて、そそくさと自分の部屋に戻った。
慣れないスーツをぎこちなく着て、ネクタイもあれほど練習したのに綺麗に行かなくてイライラしていた。
急いでいればいる程うまく行かないってこの事だよな。
そんな事を痛感しながら着替えを終えて、髪型も綺麗に整えて、玄関まで急ぐ。
玄関の全身鏡を見て、全体を確認した。
足元を見ると、俺の靴の横に親父の靴墨と、布巾が置いてある。
ああ。母さんありがとう。綺麗に磨いて、大きな声で言った。
俺「行ってくる!母さんありがとう!!」
駅まで足早に歩き、ホームに着いた。学校に行く時もたまに電車には乗っていたが、気持ちは全然違っていた。
疲れきった顔をしたサラリーマン。キビキビ歩く綺麗な女性、2、3人グループの学生たち。
いつもは何も考えず音楽を聴きながら乗っていたが、今日は何も聴いていない。
生の生活音がそのまま流れる満員電車に乗り込み、俺はこの先どんな大人になっていくのだろうと想いを巡らせる。
今日という日は、そのスタートなんだ。
何事も最初が肝心って、耳にタコの言葉を思い出す。
気持ちが奮起する様な、萎えて行く様なよく分からない感覚でボーっとしていると、最寄りの駅に着いていた。